漫画みたいな本当にあった先生との恋

私はなんの変哲もない、そこらにいくらでもいる女の子でした。勉強も平凡、見た目も普通、体型も普通、運動も普通。小学生の頃の通知表で3や4ばかりが常連だったことから、知らず知らずのうちに普通という評価が染み付いていました。普通ってやだな。なにか、ひとつくらい自分にもキラキラした誰にもないようなものが欲しいななんてよく考えていました。

小中高と普通に男の子とも仲良くしてきて、普通に告白も何人かにされました。断るのは今後の関係に波風が立ったら嫌だななんて生易しいことを考えて、好きでもないのに取り敢えずOKしては、別に楽しくもないデートに連れ出されるのに飽き飽きして結局振ってしまったり、自然消滅することばかりでした。そもそも同じくらいの男の子なんて興味がないのに。5個以上は年上がいいなぁなんて、小学校1年生の時にグループ登校の班長さんだった小学6年生の近所のお兄ちゃんのことを考えたりしていました。

そんな私に忘れられない恋をさせてくれたのが、高校時代に出会った10以上年上の先生でした。高校2年生になって新しく歴史専攻の授業を選択した私は、1年生の時には存在すら知らなかったその先生に出会ったのです。とにかく授業でのトークが楽しくて、男子生徒からの人気も高い。なのに、女子生徒からは何故かそこまで人気なし。男からモテる男なんて、こんなに格好いいことが他にあるものか。提出用のノートにあからさまになりすぎない先生への好意を書いてみたり。先生の授業スケジュールを友人先輩後輩すべてのネットワークを駆使して把握し、すれ違えそうな時や近くの教室にいた時には走って会いに行きました。とにかく先生の特別にならないと。たくさんいる生徒に埋もれたくない。毎日会いたい、その一心でした。

職員室でも私の先生への好意が噂になりだした頃、それでも大きく変わらない毎日に焦りを感じた私は、一石を投じました。

「先生、次の定期テストで私全教科総合1位を目指すから。もし1番になれたら、頭なでなでして」

「へえ!言うねえ。考えておくよ」

先生はそう簡単に私が1番になれるとは思ってないみたいな反応でした。実は高校のレベルはお世辞にも高いとは言えなかったので、平々凡々な学力の私でさえ普段から成績上位者でした。つまり、ちょっと本気を出せば手が届くんです。案の定、私は有言実行し順位の書かれた用紙を持って嬉々として先生に会いに行きました。先生は一瞬目を見開いて、おいおい本当にとったよ。みたいな表情になっていました。ですが私が「約束」と催促すると、少し目線を斜め下に降ろして思案する仕草を見せた後しっかりと私の目を見て「頑張ったな」と言い、私の頭をわしゃわしゃっと撫でました。ああ、結婚しよう。卒業したら先生のところへ嫁に行こう。

バレンタインには勿論大本命丸出しのチョコを贈りました。さすがにホワイトデーのお返しがないのは想像がついていたのですが、なんと先生が担当している1学年下の修学旅行の時期に被ったために学校に来ても先生に会えないという絶望の日になりました。ですが、後日私は先生に呼び出されることになりました。会いに行くのも話しかけるのもいつも私からだったのに、先生から呼び出し。期待に胸を膨らませながら会いに行くと、先生からキャンディの詰め合わせを渡されたのです。修学旅行先のご当地感あふれるキャンディの缶詰は、まぎれもなく私だけのためにわざわざ先生が購入したであろう物。結婚だ。これはもう結婚してくれと言われたようなものだ。完全に舞い上がりましたし、報告した友人達もこれはもう確定だ、なんて思わせぶりなことを言ってくれました。

教師と生徒が恋愛関係になるなんてタブー中のタブー。勝ち目のない戦はしない主義の私は、卒業式の日まで告白はしないでいました。卒業式は勝負の日。式が終わってこの校舎を去る時、私はお嫁さんになる。確信していました。

卒業式当日、皆が想い想いの涙を浮かべて卒業証書を受け取る式の最中も、私は先生への告白のことばかり考えて上の空でした。吹奏楽部がレミオロメンの3月9日を演奏してくれて、ちょっとドラマの主人公気分になっていました。すべてが終わって、友人や後輩たちに卒業アルバムにメッセージを書いたり書かれたりしながら過ごす時間。先生に会いに行く最後の口実は「卒業アルバムにメッセージを書いてください」にしました。ところが先生が見当たらないのです。職員室、先生が担当する部活動の活動場所、校舎中を探し回りました。式が終わって時間も経っていたので、すっかり人もまばらな校内。まさかこのまま会えないまま終わってしまうの?焦りと虚無感に苛まれそうになりながら昇降口へ向かうと、ずっと探していた背中を見つけました。

「先生!」

探し回ってたのと緊張で喉はカラカラでした。

「おう、卒業おめでとう」

優しい笑顔に胸がきゅんと締め付けられる心地よさを感じながら、用意していたアルバムを差し出してメッセージを書いてもらいました。私から見えないようにサラサラとメッセージを書いてくれる先生を見ながら、私の脳内では着実に告白へのカウントダウンが始まっていました。メッセージを書き終えた先生からアルバムを受け取るやいなや、私は今までの思いの丈を全て込めて伝えました。

「先生、すき。私と付き合ってください」

しっかりと合ったお互いの瞳。一瞬も目を逸らさずに、少し間を空けてから先生が返事をしました。

「ごめんな、それは出来ない。大事な生徒だからな」

嘘だ。だって、あんなに優しくしてくれたのに。私は先生の特別になれてたはずなのに。食い下がるわけにはいかなかった。

「どうしてですか?私、卒業したんですよ?もう生徒じゃないのに」

言ってて唇が震える。先生は、やっぱり真摯な態度で、ゆっくり優しく返してくれた。

「卒業をしても、おまえが俺の生徒であることには変わらないんだよ。それは、おまえが成人しても変わらない。おまえ、いい子だからなぁ…」

そんなの狡い。もっといい子にするよ。付き合ってよ。心の中で小さな子どものように駄々をこねる私。最後の一手。

「どうしても、だめですか?」

困ったように、それでも優しく先生が答えた。

「うん、ダメだよ」

あぁ、これはもう完全に望みなしのやつだ。でも、先生の中で最後まで特別でありたい。笑わないと。

「先生、ありがとう。先生に会えて本当に良かった」

きっと、今生の別れになる。そう思ったので、きちんとお別れを告げる。先生も笑顔で返してくれました。

「きっとこの先、もっといい男に会える。頑張れよ、大学生」

先生、それは間違ってる。先生みたいないい男、そんな簡単にいないってば。やっぱりまだ心の中の私は整理がつかないみたいでした。

「またね、先生」

「おう、またな」

昇降口から階段を登っていく先生の背中を見送る。卒業アルバムを抱きしめたまま、私の勝負の日を見届けてくれるために部室で残ってくれていた友人達の元へ戻る。うつむいて、涙をこらえながら無言で戻った私を見た友人達は、結果は聞くまでもないと察したのか、優しく慰めてくれた。

長かったようであっという間の1日が終わり、私は最後に卒業アルバムに書いてもらった先生のメッセージをまだ見ていないことを思い出しました。先生にお願いしたページをめくると、なんとまさかの見開き2ページに渡ってダイナミックなメッセージが書かれていました。こんなの狡い。もっと好きになっちゃうじゃないか。メッセージを何度も読み返しては、昇降口での会話がリフレインして涙が止まらなくなりました。

恋は実りませんでしたが、結婚して子供もできた今でも忘れられない、とてもキラキラな思い出になりました。小さい頃からずっと欲しかった、平凡じゃない特別なキラキラしたものが手に入ったのです。
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